「クラシックを聴きます。いや、クラヲタです」―おいらは、クラヲタを隠さないんだが、一見お堅いと思われている某新聞社の発行する雑誌のホームページに、「クラシックを聴くと言うとクラシックを全く聴かない人からは、「お高くとまっている」と思われるし、マニアからは「何も知らないくせに」と軽蔑される」と言うようなことが書いてあった。んな、馬鹿な。クラシックを全く聴かない人の事情は知らない。おいらは結構聴く人だから。でも、無邪気に「好きな音楽はクラシックです!」と言われて、たとえ、おいらより全然知識がなくたって、おいらは嬉しい。ゴビ砂漠を放浪していて、オアシスを見つけたくらい嬉しい。少し話したくなる。軽蔑するなんて、どんだけ性格歪んでいるんだよ…。おいらだって、知識的にはまだまだだと思っているから、こういう人がいたら嫌だな、と思う。こんなこと有名新聞社の名前を負って書かないで欲しいもんだ。ますますクラヲタのイメージ悪くなるじゃないか。
もっとも、鼻に付く感じで「クラシックしか聴きませんの。他の音楽は私様の耳には合いませんの」と言われると、ちょっといじめたくなる。返り討ちにあったとしても…だ。
ところで、クラヲタ以外で、好きな音楽はクラシックだと言う人に好きな作曲家いますか?と聞くと、ショパン若しくは、モーツァルトと返ってくることが多い。ショパンは、まぁ、全く聴かないこともないんだが、あんま得意な作曲家ではないので、適当に合わせるだけになる。しかし、モーツァルトとなるとそう言うわけにはいかない。啓蒙活動を始めようとしてしまう。ヲタクの悲しき性質だな(汗)。とは言え、せっかく、モーツァルトに興味があるんならもっと知って欲しいと思うのだ。それが、のだめの影響でクラシックに少し興味を持っただけで、勢いでモーツァルトと言ってしまったとしても。
そんなわけで、一般人にも大変人気のある作曲家モーツァルト。レコード、CDの売上枚数もモーツァルトに勝てるアーティストはどのジャンルにもいないと言う。しかし、だ。最近ふと思うんだけれども、モーツァルト人気は、ホントにモーツァルト個人に対するものなのだろうか。
どういうことかと言うと、モーツァルトが好かれているのか、それとも古典派の代表的作曲家としてのモーツァルトが好かれているのか、と言うことである。もちろん、マニア以外でモーツァルトが好きだと言う人は、古典派がどうのと言うことは関心がない。また、、古典派でモーツァルト以外の作曲家なんて聴いたことがないのが普通だと思う。それは、意識がないにせよ古典派のすべてがモーツァルトになっちゃっていると言うことだ。ハイドンだって有名だけど、あの人、結構聴かれていないんだよね…。
と言うことは、若しかするとモーツァルトって言うか、古典派様式が実は人気なんじゃないか?と言う仮説もあっていいと思うのだ。これ、古典派の音楽をしばらく聞いていて湧き上がってきたものなのだ。
確かに、モーツァルトは古典派の作曲家の中で、図抜けて凄い音楽を書いた人だ。軽い古典派音楽を蔑視した19世紀の西洋音楽界においても、多少軽んじられた時代があったとは言え、延々と演奏され続け今日に至っている。ロマン派の面々も脱帽した数少ない古典派の作曲家なのである。しかし、モーツァルト以外の古典派の作曲家は偉大なるロマン派の大先生方の偉大なる音楽によって掃討されてしまった。聴くに値しない軽い音楽として。
でも、モーツァルトの音楽様式って間違いなく古典派そのもの。バロックの中でJ.S.バッハがちょっと特異な存在だったのとは違う。モーツァルトはバリバリの古典派作曲家。だから、ほかの古典派の作曲家の作品を聴いているとモーツァルトに似た響きを聴くことは多々ある。特にミズリヴェチェクやJ.C.バッハなんて、「これ、実はモーツァルトが若い頃に書いた作品なんですよ。最近見つかったんです」なんて言われたら、大抵のクラヲタは信じてしまうだろう。
マニアじゃなければ、なおさらである。と、言うことで、もっと古典派の作品が広く聴かれるようなると、モーツァルトの評価もまた少し変わるような気がする。決して、評価が下がるんじゃなくて、「古典派の中の一人の作曲家」として、よりモーツァルトの個性に光が当たるんじゃないだろうか。そして、古典派の曲には駄作も山盛りだが屈託のない明朗な響きに魅了される人も多いのではないだろうか。
そんなこんなで、面白い取り組みをしている1枚のCDを紹介しよう。
ラインハルト・ゲーベル指揮バイエルン室内フィルハーモニーによる「イタリアのモーツァルト」というCDだ。モーツァルトのイタリア時代にスポットライトを当てて、その頃関係した作曲家たちの作品とモーツァルトの作品を収めたもの。
モーツァルトが古典派の中にすっぽりはまっていたことがよくわかる1枚だ。もちろん、その輝かしい才能は明白だけれども、モーツァルトだって、色んな作曲家の影響を受けていたのだ。
中でも、注目したいのがトーマス・リンリー。モーツァルトと同じ年に生まれたイギリスの作曲家で、モーツァルトがイタリアに滞在していたとき、やはり天才少年として、リンリーもイタリアに滞在していた。モーツァルトとリンリーはすぐに仲良くなり、別れ際には涙を流したという。残念ながら、リンリーは22歳と言う若さで没してしまい、モーツァルトのように後世に名を残す作曲家にはなれなかった。しかし、若いモーツァルトとリンリーの短いながら深い交流はお互いの音楽に少なからぬ影響を及ぼしたのではないだろうか。
このCDで聴けるのはヴァイオリン協奏曲1曲のみだが、技巧的ながら流麗で小気味のいい響きから、モーツァルトの響きに通じるものはないか、探りながら聴いてみるのも一興だと思う。
ちなみに、ゲーベルはこのほかに「パリのモーツァルト」というCDも出しているので、セットで買うのが吉。共に素敵な演奏だ。ゲーベル、ムジカ・アンティクヮ解散しちゃったのは残念だけど、こういう面白い企画を続けてくれるとありがたいなぁ。
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