「ひとくちに「古い音楽」と言っても、それは一枚岩の文化として十把一絡げに語れるものではありません。人はつい、ものごとを簡略化して、大雑把なレッテルのもとに分類してしまいたがるもの―今広く認められている分類整理のあり方の裏には、“世の中には実に様々な視点があって、雑然として整理など付くはずがない…”と言う現実が隠れていることをつい忘れてしまいがちなのではないでしょうか。」(ジャン・ポール・コンベ)
古楽器レーベル、アルファの主催者の言葉である。なるほど、例えば、クラシックと言うと、ごく狭い絞られた音楽だと言う誤解が世の中に蔓延している。ルネサンス音楽も、新古典主義音楽も同じ“クラシック”と言う言葉で括って、分類する。暴挙である。
それはさておき、このアルファレーベルのCDに面白そうなものがあったので買ってみた。『デンマークの王宮、フレゼリクスボー城の音楽~クリスチャン4世の時代より~』と言うCD。「デンマーク?古楽的には辺境じゃね?」と思ったんだが、案外そうでもない。クリスチャン4世って、ダウランドを雇っていたこともある、音楽好きの王様だよ、ってなことを解説書で読めば、「あー、そう言えば、ダウランドって北欧の方で仕事していたな~」と思いだす。どうも、イギリスとデンマークは色々と関係あったらしく(詳細は割愛)、このCDのプログラムにもヒュームだのメイナードなど、聞いたことのある名前を散見することができる。ガーデ、ニールセンを待つまでもなくデンマークは結構音楽活動が盛んだったのかもしれない。
そんな、古き時代のデンマークのお城で響いていた音楽を再現したのが、このCDってわけだ。お城の音楽って言うと、王宮の花火のための音楽じゃないけど豪華絢爛に鳴り響く、貴族ちっくなものを思い浮かべるが、これは違う。クリスチャン4世の時代って言うのは、17世紀初頭の頃。モンテヴェルディがバロックの扉を開いたころではあるけれども、ダウランドやバードも健在でまだまだルネサンス色が濃かった時代だ。新しい音楽としてのバロックは、先進国イタリアからは大きく踏み出してはいなかった。
ここで聴く音楽も、ルネサンス音楽と言い切っていいもので、バロック音楽のように雄弁で表情の豊かなものではない。淡々と紡がれる音楽に、冷たいながらも純粋な美しさを感じさせる、あのルネサンスの響きが満載なのだ。こんな哀愁漂う音楽がお城で鳴り響いていたなんて…ドラマチックではないだろうか。古い絵巻物を眺めているような、古い物語を読んでいるような郷愁を感じさせるのだ。冒頭の引用じゃないが、王侯貴族の音楽と一口にいっても、こういうのもあるわけで、やっぱり古い王侯貴族の音楽としてひと括りにするのは無理がある。
演奏しているのは、レ・ウィッチーズと言う古楽の楽団。魔女たちと言う意味だ。クリスチャン4世の王宮の音楽とは、また、意欲的なプログラムを考えたものである。情緒ある美しい響きで、聴く者を17世紀初頭のその時代に連れて行ってくれる。魔法のように。収録場所はもちろんフレゼルクスボー城。行ってみたくなった…。
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