「昔は良かった…」「物騒な世の中になったものだ…」と世の老人は口を揃えて言う。これを辿っていくとユートピアは原始時代にあって、現代はこれまでの時代で常に最悪であり続ける。これ、常識。戦後の混乱期だって、今よりはずっと治安が良かった。否定は不可能である。
音楽についても、同じである。「今の若い連中の音楽ときたら」「昔の音楽は良かったよ」…おいらも近しい言葉を聞かされたことがある。「俺たちの頃の音楽は」と、古き良き時代を語っておられた(クラヲタに言うっつうのも、なんだかなぁ、だけど)。もちろん、音楽においても前のパラグラフの定説が当てはまる。「過去」こそ偉大である。今一般にCDで聴ける音楽ではグレゴリオ聖歌がその最高峰にある。「お経じゃね?これ」(by おいら)とか言うやつは、もうダメダメである(汗)。
そんな偉大な「過去」に近付きたくて、またルネサンス音楽のCDを買ってしまった。ちなみに、ロマン派なんて新しい音楽はルネサンスの前では、しょーもない存在であることは言うまでもない。とは言え、ルネサンス音楽だって、たかだか15世紀~16世紀頃の音楽。グレゴリオ聖歌よりもずっと現代寄りにある音楽なので、さほど偉大ではない。まぁ、それでも現在CDショップで売られているCDのなかでは、圧倒的に古い音楽の部類なので、おいらにはもったいないくらいの存在だ。
さて、今回買ったのは、スティレ・アンティコと言う英国の若手グループによる『終祷のための音楽』。終祷とは修道院の一日の終わりの礼拝のことらしい。収められているのは16世紀のイギリスの作曲家のもの。バード、タリス、シェパードと言う割とメジャーな作曲家のものを中心に17曲が収められている。
録音場所は当然、教会。長い残響が厳かな空気を醸し出す。豊かで美しいスティレ・アンティコの歌唱も実に素晴しい。ルネサンスへの郷愁を感じるのは確かだが、この美しさは、決して古臭くはない。ルネサンス期の宗教曲を歌うのだから、清澄であることは当然だが、なんかこう、透明感の中に実にメローな響きがあるのだ。若いグループでまだそれほど録音が多いわけではないが、これはたくさん聴いていきたいグループである。がんばって録音をたくさん出してほしい。
ハルモニア・ムンディ・フランスの録音も優秀だ。デラー・コンソートなんかもいいんだけど、やはりこういう音楽は、明瞭な最新録音で聴きたい。
と、おっとっと、「過去」こそ偉大なんである。「レコードは良かった。今のCDの音は味がなくていけない」のだった。PCM?DSD?そんなの関係あるか!ま、LPの音の良さを活かせる装置って相当拘らないといけないんだけどね。もちろん、昔のオーディオは非常に素晴らしかったので普通の人でもCD以上の音質で再生していたことは言うまでもない。オーディオ環境も鉄壁である。まぁ、ソフトが高くて、色んな音楽を聴けなかったのは、欠点だが、「昔は、ものが豊かではなくても心が豊かだった」から差し引きすれば、昔の方が豊かだったのである。
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