これはクラシックを聴かない人たちには意外な話になるだろうが、クラシック音楽(定義は兎も角)とは、恐ろしく貪欲な音楽である。新しいジャンルの音楽が出てこれば、すぐそれを取り込もうとして、食指を伸ばす。例えば、20世紀におけるジャズや各時代における民謡の類がそうだ。作曲家たちは、新たな音楽表現手法をすぐに研究し始めて、自分の音楽に取り込んでしまう。そうして、まるで自分たちの音楽であるかのように作品を仕立て上げてしまうのだ。ラヴェルのピアノ協奏曲然り、ドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』然り、である。
古典派におけるトルコ音楽の吸収もその代表的な一例だ。当時ヨーロッパに侵攻をしていたオスマン・トルコ軍が持ち込んだ音楽に、古典派の作曲家たちは魅了されたのだ。そうして好奇心の旺盛な彼らは自分たちの音楽にそれを取り入れ始めた。一番有名なのは、モーツァルトの『後宮からの誘拐(逃走)』だろうか。ストーリーが思い切りトルコを舞台にしているし、あのドンチャン、ドンチャン鳴るトルコ風の序曲の響きも強烈だ。とは言え、トルコ音楽に影響を受けた多くの音楽は、それほど聴き継がれることを念頭に置かれていなかった「古典派」の音楽だから、大抵は長い時間の間に風化した。
しかし、そんな楽しい音楽史を放っておく手はない!!と言うわけで…こんな(↓)CDを買ってみた。
『オリエントの夢』 コンチェルト・ケルン&サラバンド
コンチェルト・ケルンのアルヒーフ移籍第1弾として発売された企画もののCDである。古典派のスペシャリスト、コンチェルト・ケルンとトルコ音楽のスペシャリスト、サラバンドがタッグを組んで、18世紀後半のヨーロッパにおけるトルコ音楽ブームを再現した1枚。内容は、トルコ音楽から影響を受けた古典派の曲とトルコ音楽そのものをほぼ交互に収録したものになっている。
最初は、幻想的なトルコ音楽でスタートするが、2曲目に『後宮からの逃走』序曲が入り、賑やかになっていく。異国情緒あふれるエキゾチックな響きと屈託のない古典派の音楽が「楽しい音楽の時間」を作り上げていく。コンチェルト・ケルンの演奏も小気味が良い。
さて、ここで登場する作曲家…まず、モーツァルト、グルック御大、J.M.クラウス、そして、最後を締めくくるのがSussmayrのトルコ風シンフォニアである。Sussmayr…一瞬、だれ?って思った。Franz Xaver Sussmayr…ははは、ジュスマイアーじゃんね。モーツァルトのレクイエムの補作だけで有名な人。天才に依存する悲し過ぎる一発屋。レオポルド・モーツァルト、サリエリ等、モーツァルトがいたからこそ、後世に名前を残せた人の一人。モーツァルトの才能は自身だけじゃなくて、他人をも後世に名前を残してしまったのだ…。偉大なり。
で、このトルコ風シンフォニアが面白いのだ。もう娯楽に徹していて、とにかく楽しい。他の3人の音楽と比べると、まぁ、凡庸な才能だったのだろうが、トルコっぽさでは、誰にも負けていない。トルコの打楽器なんかも入っちゃって、なんともご機嫌な音楽である。モーツァルトのレクイエムを補作した人だと思うと、なんだか、がっかりしてしまう(笑)。おいらは、アンチ・ジュスマイヤー派になる(ウソ)。まぁ、なにはともあれ、前から聴いてみたかったジュスマイヤーの音楽が聴けて、思わぬ収穫だった。
…ところで、東洋っつうと、日本こそ究極の東洋だよなぁ。いや、だから、なにってわけじゃないけど、トルコが東洋か!!と…ぬるいな(笑)
[0回]
PR