以前このブログで古典派のスペシャリスト、コンチェルト・ケルンとトルコ音楽のスペシャリスト、サルバンドによる『オリエントの夢』と言うCDを紹介した。これは、トルコ音楽とそれに影響を受けた古典派の作品を混ぜて1枚のCDにする、と言うちょっと面白い企画だった。
さて、この『オリエントの夢』の続編的企画で『西洋と東洋のワルツ-法悦と神秘主義』と言うCDが出ていたので買ってみた。テーマは「ウィーン古典主義からオスマン芸術音楽へと続く、音楽の旅」。『オリエントの夢』は古典派に留まってトルコ音楽との対比を楽しめたが、このCDは古典派にとどまらず、時空移動を始める。「オリエントの夢のその後…」って感じだろうか。『フィガロの結婚』と『セビリアの理髪師』のような、後日談を聴かされているようなもの(か?)。
全部で5部に分かれているんだが、スタートはやっぱりモーツァルト。「ヨーロッパ人デデ/トルコ人モーツァルト」と題して、モーツァルトのドイツ舞曲とトルコの宮廷作曲家ハマーミーザーデ・イスマイル・デデ・エフェンディのセマイ(歌と楽器による短い曲)を交互に演奏していく。デデ・エフェンディの作品から西洋音楽、特にワルツの影響を見出し、「古典派がトルコ音楽に影響を受けていたようにトルコ宮廷音楽も西洋音楽に影響を受けていたのだ!」と言うことを立証しようとする。モーツァルトのドイツ舞曲は、まぁ、良いんだが、はじめて聴く、デデ・エフェンディの作品もシンプルながら美しくって、簡単に心を掴んでくる。「バラよ、いまひとたび」なんか、明日からの鼻歌候補になりえる。バックのコンチェルト・ケルンの演奏がまたよい。
古典派から時代は少し下って、次のお題は「ウィーンからオスマン帝国へ」。ランナーのワルツの間にアブディ・エフェンディと言うトルコの作曲家の作品を挟む。それから、次のお題、「トルコの音楽論争」へと続いていく。ベートーヴェンのドイツ舞曲とデメトリウス・カンテミール(ヨーロッパ人だが、トルコの伝統音楽の作品を書いていたらしい)の作品をめぐって、トルコで音楽論争が巻き起こったらしい。オスマン芸術音楽的には重大な出来事なのかもしれないけど、西洋音楽史的には「へぇ…そんなんあったんだ」って程度の認識かな。と言うわけで、この論争の中心にあった2人(ベートーヴェンとカンテミール)の作品が紹介される。
続いてのお題は「ドナウ河のさざなみ」。ここは、ヨハン・シュトラウス1世のケッテンブリュッケ・ワルツ、1曲だけで軽く流しておいて、最後の「神秘主義と法悦」に繋げていく。なんか、ようわからん…。音楽の旅は迷走して、デデ・エフェンディに戻ってきて、最後は「えいや!」でベートーヴェンのドイツ舞曲第12番で締めくくられる。
コンチェルト・ケルンの闊達な演奏は聴きものだが、企画ものとしては『オリエントの夢』ほどシンプルに仕上がっていないような…。西洋とトルコの音楽交流の歴史が全く理解できていないもので、少し頭を抱えてしまう。多分、音楽史とか考えないで感じるままに聴くことが大切。仕切りなおしてもう一度聴こう。
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