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『遠くからの愛~愛と喪失の中世の歌~』と言う乙女チックなタイトルのCDを買った。ジャケットのデザインは、釘でハート型に形どられた薄ピンクの毛糸の写真。右の一端が千切れていて、喪失をさり気なくあらわしているものの、とってもラヴリー。とってもキュート。大の男が、がっつり掴んでレジに持っていくには少し気恥ずかしいような気すらする。とは言え、このラヴリーなジャケットに釣られて、女の子にお勧めしようなんて思ってはいけない。中身は、オクシタニアとスペインの宮廷や村などでトルバドゥール、トルヴェールたちが歌った「中世の歌」。ラヴリーさの欠片も感じない。ガチヲタ向け。

つっても、トルバドゥール、トルヴェール…要するに吟遊詩人たちの歌っていた歌は、いわゆる世俗歌。がっつり構えて聴く必要はない。まぁ、ガチヲタじゃない人がこのCDに辿りつくことがあるかどうかは知らないが…。

演奏は、アンサンブル・ジル・バンショワと言う団体。バンショワと言うくらいなんだから、中世の音楽がレパートリーの団体なのだろう。1曲目のクァンタス・サベデス・アマル、アミーゴのぞくぞくする様なエキゾチックな古雅な響きからずずいと吟遊詩人のサウンドに引き込ませてくれる。美しい。続く、2曲以降のプログラミングも見事…なのだろう。中世音楽にそれほど慣れていないおいらにも、飽かずに、あっという間に集中して1枚のCDを聴き切らせてくれる。このジャンルでは名の知られた楽団だそうだが、なるほど、演奏も素晴らしい。

ところで中世の音楽はバロック以降の多感で表情の豊かな音楽に比べると、やや能面のような冷たさがあるのは否めない。しかし、その一見無愛想な音楽が放つ響きの魅力には抗いがたいものがある。淡々とした飾らない表現が、率直に心に訴えかけてくるのだろうか。そうした魅力もこのCDは確りと表現してくれている。

…って、これ、クラヲタが聴かなければ「民族音楽…だよね?」と言われそうである。まぁ、世の中の多くの向きは、ジャンル分けをはっきりとさせたがる傾向があって、「これはクラシック」「これはポップス」と、はっきり区別するんだが、実はそう言う線引きと言うのは非常に難しい。敢えて行おうとすれば、残念ながら、どこかしらで誤解を招くものになってしまうだろう。

で、中世音楽なんだが、これは確かに西洋民俗音楽である。つか、クラシックと呼ばれている有象無象の音楽全般が西洋民俗音楽なんである。で、このクラシック、特にロマン派の手法は、今日のポップスまで繋がっていく。これは詳細は語るのがめんどいから割愛するが、西洋音楽史と言う大きな視点で眺めれば、ジャンル分けと言うのは便宜上あるものの、大した意味はないのだと理解することができる。我々は西洋民俗音楽に“世界征服”されてしまったのである。諦めて、その原点、中世音楽を聴いてみよう!

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