行ってしまった、秋葉原。CD買いに。GWくらいから買ってなくって、このまま6月を迎えようかと思ったんだけど、集中力が途切れた(集中力…要らないかw)。もちろん、目的地は石丸電気ソフト館。相変わらず、店の前に謎の集団が列をなしている。いや、謎ではない。薄々とはなんなのか気付いているのだが、さて、具体的に何なのか分からない。並んでいるのは男ばかり。おいらと同じくらいの年代の人も随分といる。秋葉原だからね。だって、秋葉原だから。
この行列は、どうも店内にもいるらしくて、落ち着いた風を装っている(!)クラシック・コーナーにも男たちの浮かれた声が聞こえてくる。上からも、下からも…。
こうして売り場の音を気にしだすと、もう一つ気になることがある。クラシック・コーナーで流している音楽だ。お勧めしたいソフトが色々あるのは判らないではないが、色んなソフトをいっぺんに流し過ぎである。あっちのDVDからはチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、こっちのDVDからはチャイコフスキーのピアノ協奏曲、で、店内にまた別のCDを流している。「あ、この録音いいな!」と思う可能性を限りなく引き下げてしまうやり方ではないだろか。
さて、それはともかく。今回、石丸に行ったのは、目的のCDがあったから。結局、1枚たりともおいていなかったと言うことで、軽く敗北っぽい感じなんだが、まぁ、大抵はそう言うことになるので、たいして気にしてはいない。あったとしても、実物を手にしたら、「いらねっか…」ってなることもあるし、あまりマークしていなかったCDが「これいいんじゃないか?」となることもある。そもそも、何の予定もせずにCDショップで良さげなCDを見つけて買った場合、意外とあたりになる場合が多い。音楽の良し悪しって、聴き手の気分に左右する部分が多いわけだから、今聴きたいと思ったCDを帰ってすぐ聴けると、そりゃ、まぁ、気分が乗っているから、良く感じるものだ。
で、今回の“あたり”は、『妖精の騎士』と題された1枚。サブタイトルに「ルネッサンス期イングランドのバラッド(歌)と舞曲」とあるように、古楽である。古楽と言うと、さも古臭い音楽を聴いているように思われるが、この先入観は、古楽のCDを聴くと軽く裏切られる。楽譜のない時代、楽譜があっても、正確に再現することが難しい時代の音楽は特にそうだ(中世、ルネサンス音楽の多くがそう言うことになる)。一体、どの楽器でどういうリズムで演奏したら良いのか、検証しながら演奏されるため、演奏団体によって全く別の音楽になってしまうことも十分にありうるのだ。
そして、それらにたぶん正解はない。と言うか、そもそも正解は存在しない。同じ曲でも、正確に伝える技術がなければ、時代や場所によって随分と違う形式で演奏されていたと考えられるからだ。よって、古楽を演奏する場合、それは奏者の解釈に大きく頼るところとなるわけだ。再現性を追い求めているのか、個性を押し出すのか、何れにせよ、個々の音楽性に頼ることになるため単なる古臭い音楽にはならないのだ。じゃぁ、それは古楽とは言わないんじゃないか、と言われれば、それはそうではない、と言うところが面白いんである。
とちょっと、最近読んだ何冊かの本から得た知識で軽くシッタカをしてみたが、古楽の知識は浅薄だ。
それで、話を戻そう。えーと、そうそう『妖精の騎士』である。サブタイトルにあるようにルネサンス(15~16世紀)期にイングランドで歌われていた世俗曲である。スカボロ・フェアとか、グリーンスリーヴスとかは今でもポピュラーなメロディだろう。スカボロ・フェアはサイモン&ガーファンクルによって一躍有名になったわけだけれども、ここに収められているスカボロ・フェアはこれとはだいぶ違う版。詳細は割愛するが(興味があったらググって欲しい←なげやり)、サイモン&ガーファンクルの原典の更に原典くらいの音楽だ。ちなみに、タイトルの妖精の騎士と言うタイトルは、ある歌につけられたタイトルなのだが、この歌にはいくつものバージョンがあって、そのうちの3曲がここに収められている。実は、スカボロ・フェアも妖精の騎士のうちの1バージョン。なので、ほかの2曲と歌詞が似通っている(具体的には、「パセリ、セージ、ローズマリ、タイム」と香辛料(ハーブ)を列挙するくだりなど。微妙に異なるのは口承ゆえの混乱)。
スカボロ・フェアにしても、グリーンスリーヴスにしてもそうなんだが、ここで聴く音楽は何と新鮮なんだろう!だから、古楽は古臭くない!と思わせてくれるものだ。グリーンスリーヴスは、ヴォーン・ウィリアムズが随分と瞑想的で美しい幻想曲に仕立て上げてしまったせいで、静かな曲と言うイメージが刷り込まれてしまっていたが、ここではノリノリの恋愛歌だ。酒場で陽気に歌って手拍子でも入れていたのだろうか。と、古き時代に思いを馳せるのだが、まるで今まで聴いたことのない響きだもんだから、新しい。スカボロ・フェアもなんとメランコリックで美しい音楽なんだろうか。
おっと、まだ奏者を紹介していなかった。メインはヨエル・フレデリクセンと言うバス&リュート奏者。そう、歌いながらリュートを弾くんである。凄い渋い声なのに透明感があってむっちゃカッコいい弾き語り。容姿もこれらの曲を歌って歩いていた吟遊詩人っぽくって◎。彼の周りで盛り上げているのは、アンサンブル・フェニックスと言うフレデリクセンの創設したミュンヘンの楽団。曲によってはテノールやカウンター・テナーも入って大いに盛り上げる。特に、Lord Darlyでの3人の歌手の掛け合いは実に楽しい。
またひとつ素晴らしい古楽の世界を知ることができた。猛烈にお勧め。
最後にグリーンスリーヴスについて、雑学めいた知識を紹介しておく。このグリーンスリーヴス、要するにそのまんま「緑の袖」と言う意味なんだけど、これは草叢で寝転んで袖が緑に染まる、と言うことだそうだ。転じて、娼婦のことを指すと言う。昔の絵画で緑の袖の女性を見かけたら娼婦を描いたものだと理解していいのかもしれない。
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