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金澤正剛著『新版 古楽のすすめ』(音楽之友社、2010年)を読み始めた。読むのは遅いほうで、まだ最初の方しか読んでいないんだけれども、著者がハーヴァード大学でチューター(指導教員)をした頃に出会った、一人の青年の話が興味深かったので、ちょっと長くなるけれども引用して紹介してみる。

「(略)学寮に、チェンバロを得意とする学生がひとりいた。フランスのロココ芸術に夢中な、極めてエキセントリックな青年であった。ある日のこと彼の部屋に行ってみると、裸になって、しきりに壁に絵の具を塗りたくっている。何をしていると尋ねると、自分の好みに合った部屋に飾り変えているのだという。裸でやっているのは、たくさんの絵の具を使うので、どうしても絵の具だらけなってしまう。裸なら、あとでシャワーを浴びれば簡単だからということだった。完成したらパーティを開いて見せてあげるから、それまでは秘密、秘密と言って、その場は追い出されてしまった。
 半月後、約束のパーティを開くからというので行ってみたが、彼の部屋に一歩入ったところで唖然としてしまった。伝統的なニューイングランドの渋い様式の外部とはまさに対照的な、華麗な別世界に足を踏み込んだと言う感じであった。その装飾は明らかに美術書などを参考にしてデザインした本格的なロココ様式で、特に寝室は雪のように淡く白いカーテンの上に、ルイ十四世朝様式の王冠を飾るという念の入れようである。」(P.14)

「(略)私も彼の才能を認めて、音楽会の企画を任せたことが何度かあった。例えばあるときその彼が、バッハの《コーヒー・カンタータ》を劇的な演出つきでやってみたいと言い出した。よかろうと許可したところ、さっそく愛器のチェンバロを大広間に持ち込んできた。舞台としては、大広間そのものが時代がかった雰囲気を持った部屋なのでそのまま使えばよい。正面には大きな暖炉があるが、彼はその前に骨董品の大型コーヒー・メイカーをどこからか見つけてきて、どんと据えた。そしてチェンバロを弾きながら指揮に当たるばかりではなく、歌っている歌手とパントマイムを演じた上、休憩時間にはコーヒーをいれて、聴衆に配ってまわった。」(P.15)

「(略)ぜひ一度、四台のチェンバロのためのコンチェルトを演奏してみたいという。当時はまだ、芸術の都ボストンといえども古楽の復興は始まったばかりの頃である。古楽器を四台揃えるのも大変なら、それを弾く四人を見つけることさえおぼつかない。私はできるものならやってみろと許可したものの、内心無理だろうと高をくくっていた。ところが彼は即座にチェンバロ三台を演奏者付き(四人目は彼自身)で見つけてきて、しかも実に見事な演奏を披露したのである。これにはまったく感服してしまった。」(P.15)


青年の行動力とアイデアの豊富さには驚くが、それを押さえつけないで自由にやらせてくれる学校側もなかなかなものじゃないだろか。寮の部屋をそんな風にしてしまったら、いくら芸術系の学校だって、大変な問題になるだろうに。

で、この青年、只者じゃないってことで、このあとネタばらし。ウィリアム・クリスティと名前を明かしている。ベルサイユ楽派の音楽を現代に鮮やかに蘇らせたフランス・バロック(古典派)の権威的存在である。古楽好きなら、初心者のおいらでも知っているレベルの超大物。1979年に結成したレザール・フロリサンとは、仏ERATOに数多の録音を残している。アガサ・クリスティの親戚と言う噂もあるが、真偽は確認が取れないと本文にあったので、ネットで調べてみたけれども、やはり判らなかった。

こういう誰もやらなかったことをやって、多くの人を説得してしまう人って言うのは、常識に捉われない自由な発想があって、逸話に事欠かない。狭い世界で生きて、自分の常識以外を否定するような一部の人からは悪しき異端と見られるだろうけれども、多くの人からは、敬意と羨望を得ることになる。音楽家ならばなおさらのことだろう。

さて、このクリスティ御大ととも演奏活動を行った日本人ヴァイオリニストにヒロ・クロサキ氏がいる。以前このブログでインタビューのリンクを貼ったことがあるのだけれども、寡聞にして演奏を聴いたことはなかった。レザール・フロリサンのコンサート・マスターを務めていたこともあるので、正確に言えば、聴いたことがあるのかもしれないけれども、ソロで演奏しているCDは1枚も持っていなかった。とは言え、聴いてみたいと思っていたので、廉価盤になって、お求めやすくなっているヘンデルのヴァイオリン・ソナタ集を買ってみた。通奏低音は、チェンバロかオルガン。曲によって使い分けている。演奏しているのは、クリスティ。

もちろん、バロック・ヴァイオリンでの演奏なんだけれども、尖がった感じはしない。活き活きとして流麗かつ艶やかな響きがスピーカから心地よく流れ出てくる。バロック・ヴァイオリンの響きは、疲れているときに聴くとエキサイトし過ぎて、付いていけないこともあるんだけれども、ヒロ・クロサキ氏の響きには、そういうきつさはまったく感じない、もちろん、モダン楽器のように優美に過ぎることもない。飽きない。クリスティの伴奏も素晴らしい。ソリストとの掛け合いも見事。オルガンの通奏低音と言うのも、珍しいような気がするけれども、優しい響きがなんとも魅力的である。ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ集のファースト・チョイスにもなると思う。

ちなみに、ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ集はミナジの演奏も、楽しいんだけれども、あまりにもエキサイティングでファースト・チョイス向けではないのかも。おいらは、それまでまともに聴いたことはなかったけれども、ヒロ・クロサキ氏の演奏を聴いてからのほうが、より楽しめたかなとは思う。なお、ミナジ盤の通奏低音は、チェンバロとチェロである。

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