クレンペラーが『魔笛』の録音(1964年、EMI)を終えたときに、
夜の女王を歌ったルチア・ポップに、
「お嬢ちゃん、この役を歌うには早過ぎるね」
と言ったそうである。ルチア・ポップ24歳、これがデビュー盤だった。
何となく、クレンペラー師がポップを大人の女性として扱っていない様子が、
伝わってくるエピソードである。(もちろん、日本語の訳し方で印象は変わるが)
まぁ、確かに、ポップの凄味があるとは到底いえない声に加えて、
小柄で童顔の容姿も、一般的な夜の女王とは印象がかけ離れている。
(もちろん、容姿は化粧で何とかしているんだけど…)
ポップの一般的な印象ならば、デビューの年にザルツブルクで歌った三人の天使か、
後年得意としたパミーナの方がしっくり来る。
…が!聴いてみるとこの夜の女王が意外といいんである。
自分は、グルベローヴァに勝る歌唱として推す。
夜の女王とて、鬼子母神のように、
「鬼」としての一面と「母」としての一面があるはずだ。
そういう意味で凄味が前面に出ているのもいいが、
優しさ、女性らしさが強く出ているものもまた良い。
ポップの歌唱はもちろん後者。
名盤である。
ちなみに、クレンペラーとポップは、
『コシ・ファン・トゥッテ』でも共演している。
残念ながらこちらは長らく廃盤だが…。
なんだかんだ言って、ポップのモーツァルトはやっぱいい!
幸い録音が割合と多いのはうれしいこと。
出来れば、今後、もっと復刻してもらいたいけれども…。
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