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ウィーンと言えば音楽の都。しかし、ウィーンが音楽の都と呼ばれるようになったのは、古典派で3人のビックネームが活躍して以降のこと。それより前の時代では、ウィーンは決して音楽先進地域ではなかった。

そんな音楽の都の前時代を積極的に掘り下げて活動しているヴァイオリニスト、グナール・レツボールが新たに興味深いCDをリリースした。タイトルはEx Vienna、サブタイトルにAnonymus-Habsburg violin musicとある。レーベルはPan Classics。輸入元のマーキュリーが日本語解説を付けてくれているお高いCDだ。この日本語解説によるタイトルは『ヴァイオリン×バロック×ウィーン』、「17世紀オーストリア、作曲者不詳の傑作8編」となっている。

これはウィーンのコンヴェンツァル聖フランチェスコ会修道院にXIV-726と言う写本番号で所蔵されていた楽譜帳に収録されていた作品のうち作者不詳の曲ばかり8編を録音したものだ。XIV-726には、これら作者不詳の曲のほか、ビーバーやシュメルツァーと言った当時の名匠の作品、さらには現在ではその詳細も定かではない作曲家の作品も収められている。作曲者不詳の作品については、なぜ作曲者の名前が記されなかったかはわからないが、レツボール自身の憶測では、もしかしたら、この写本の製作者自身ののものかもしれない、としている。

いずれにせよ、このXIV-726に収録されている曲はすべてヴァイオリンのための曲であり、しかも、ヴァイオリニストの技量をひけらかすような技巧的な作品が多いという。このCDで聴くことのできる8編にしても、なかなか一筋縄にはいきそうにない曲ばかりだ。

それにしても、このCDを聴いていて思うことは、これほどの曲がなぜ、「作者不詳」なのか、と言うことだ。この答えは、レツボール自身による解説書に事細かに書かれている。詳細は書かないが、要するにこの頃の音楽家たちは、「著作権」に対する意識が異常に低かった、と言うところに起因するらしい。例えば、ブタペストで入手した作品をウィーンに持ってきて、「これ、俺の作品です」と言ってしまえば、そうなってしまう。馬車と徒歩で移動していた時代では、都市間の人の行き来は決して多くなく、その「嘘」を見破る術もなかったというわけだ。

そういうこともあってか、作曲者の存在はいたって軽く扱われていた。音楽が良ければ誰の作曲かなんてことはどうでも良かったのだろう。

今日、例えば、ロマン派の有名作曲家の作品であれば、未熟な駄作であったとしても、録音され世界中の音楽ファンのもとに届けられる、そんな状況とは全く正反対な純粋に音楽のみを評価する時代だったと言えるのかもしれない。

そんな時代の一部を切り取ったこのCDの中で、とにかく、インパクトが強いのが第69曲 郵便馬車の角笛だ。優しいメロディと叩きつけるようなリズムが錯綜する強烈な音楽だ。この時代の郵便馬車ってどんなだったかは知らないけれども、何かが違うような気がしてしょうがない。モーツァルトのポストホルン・セレナーデのイメージがあればなおさらだ。あ、モーツァルトのもポストホルンが出てくる前後は妙に堂々としていて偉そうだな…。それにしたって、普通に考えても、こんな過激に郵便配達されたらたまらないだろう。

もっとも演奏者がレツボールだからなぁ。ほかの曲も痛快にダイナミックな演奏を披露してくれている。初録音のものばかりかもしれないけれども、相変わらず、ものすごく癖のある演奏。これしか演奏がなければこれがスタンダードになる。うはぁ…。



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