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ジャケ・ド・ラ・ゲルのヴァイオリン・ソナタ
2012/11/17 (Sat)
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作曲家と言えば、男性。男尊女卑社会だったんだからしゃーなし、で、片付けてもいいんだけれども、未だに女性作曲家と言うのは多くはない。じゃぁ、ま、諦めておくか、と言うのでは面白くない。クララ・シューマンやファニー・メンデルスゾーン、アルマ・マーラーと言った、大作曲家の周辺の女性でなくたって、探せばいる。アメリカのエイミー・ビーチ、フランス6人組のジェルメーヌ・タイユフェール、現代作曲家のソフィア・グヴァイトゥーリナあたりは有名なほうだろうか。このくらいの作曲家だとCDも何枚か手に入れることが出来る。女性がどんな曲を書くのか、興味のある方は試し聴いてみるといい。
さて、今日は、エリザベス・ジャケ・ド・ラ・ゲルと言うバロック期の女流作曲家のお話。バロック期といえば、男尊女卑の時代で、女流作曲家なんて珍しい!と言うのが、当たり前。ジャケ・ド・ラ・ゲル以外では、ジュリオ・カッチーニの娘、フランチェスカ・カッチーニとセッティミア・カッチーニ、それにバルバラ・ストロッツィが、少し知られている程度か。
ジャケ・ド・ラ・ゲルの経歴をウィキペディアを参考に簡単に紹介してみよう。1665年、パリに楽器職人の家系ジャケ家の娘として誕生。クラヴサンの演奏で、幼少期より神童として知られる。1684年にマラン・ド・ラ・ゲルと結婚し、ジャケ・ド・ラ・ゲルと言う姓を名乗るようになる。この時代のほかのフランスの作曲家同様、ルイ14世の寵臣として仕えており、ヴァイオリンとクラヴサンのためのソナタ集(1707年)が直々の謁見の場で賞賛されている。広いジャンルにわたりかなりの数の作品を残しているらしい。
さて、最近入手したCDは、このルイ14世に直々に賞賛された、ヴァイオリンとクラヴサンのためのソナタ集である。演奏しているのは、バロック・ヴァイオリニストのフローランス・マルゴワールと彼女の主宰するアンサンブル・レ・ドミノ。マルゴワールと言えば、ジャン=クロード・マルゴワールが有名だが、フローランスは彼の娘で、父の主宰する王室大厩舎・王宮付楽団をはじめ、レザール・フロリサン、ルーブル宮音楽隊、ラ・シャペル・ロワイヤル、レ・タラン・リリークと言ったフランスを代表する古楽楽団で活躍。2003年にアンサンブル・レ・ドミノを結成している。そんな彼女が同郷のバロック女流作曲家に注目したのは、ごく自然な流れじゃないだろうか。
曲は、ソナタとあるけれども、ロマン派の常識で聴かないほうがいいような代物だ。兎に角、構成と言い、音楽と言い、当時としてはだいぶ自由な発想で書かれている。ルイ14世の賛辞も「他のなにものにも似ていない」と評してのものだった。例えば、当時の器楽の常識であったコレッリの形式も参考程度にしかされていない。つまり、遅い楽章から始まり、早い楽章が続き、再び遅い楽章があって、最後に早い楽章で終わる、と言う形には捉われず、プレスト→アダージョ→プレスト→プレストと進んだりする。楽章数も、6曲ある曲に統一感はなく、4楽章編成から8楽章編成まで様々だ。長さも、5分以上かかる楽章があったかと思えば、1分もかからない楽章もある。これだけ見ても、なんとも自由な音楽に見えてきてしまう。
なぜ、こうなったか。もちろん、作曲家自身の才能もあるんだけれども、時代背景もある。ソナタと言うジャンルの曲は、イタリア発祥のもので、17世紀初頭には既に登場していて、その後、ドイツ、オランダにまで広まった。しかし、フランスでは、独自の音楽に誇りを持っていて、イタリアの音楽を受け入れようとしなかった。そのため、フランスの作曲家はソナタを書こうとしなかった。それでも、17世紀末になると、時代の流れに逆らえず、徐々に受け入れられていく。ただ、単に受け入れるのではなく、フランス独自のエッセンスを入れて独自のものにしようとしたがった。それがアルマンドなどの舞曲だ。ジャケ・ド・ラ・ゲルの活躍した時代は、ようやく、フランスがソナタを受け入れ始めた時代で、わりと自由な形で作曲することが許容された時代。だから、こうした独創的な曲を書くことが出来たわけだし、ルイ14世もその独創性を評価したのだろう。
編成は、ヴァイオリンとクラヴサンのためのと言うタイトルなんだけれども、クラヴサン=通奏低音と言うことで、通奏低音には、クラヴサンに加えて、ヴィオラ・ダ・ガンバとテオルボ若しくは、バロックギターが参加している。曲の印象は、イタリア・バロックのようにエキサイトすることはあまりない。イタリアのソナタを受け入れた音楽とは言え、音楽そのものは、ベルサイユ楽派の響きを受け継いでいるようだ。マルゴワールもバロック・ヴァイオリンとは言え、ガツガツ攻めて来ず、丁寧に歌い上げている。優美な美しさと、メロディが魅力的。古楽に疲れたときの、一休みに、お勧め。
ちなみに、このCD、リチェルカールからのリリース。日本語解説の付いているものを買ったんだけど、お高い…。タワーレコードの微妙なセールで若干安く買えた。
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【CD&DVD雑記】
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